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平安なこころは 成長を促す


「継続ってすごいなあ!と思うんです。
   去年はめちゃくちゃ辛かったことが、
  今年は頑張れてるんです。」

中2の陸上部の女の子は
目を輝かせ、
ジャージ姿で生き生きレッスンに来た。


現在のレッスン曲の前に、
自分で選んできたレパートリーを
2曲弾くが、
先週、暗譜で弾いていた彼女。

わたしは
最後にそっと言った。

「しっかり覚えているよね!
   素晴らしいよ!
   その上で、どこかのページを
   開いておくといいよ。
   どうしてかっていうと
   楽譜はいつも語っているからね。
   楽譜からいつも
   メッセージが発されているからね。」


昨日の、
そのレパートリー時間。
無言でさっと楽譜を開いて
弾き始める。

素直だなあ、と思う。

さりげなく伝えたことを
さりげなく自分のものとして
すぐ取り入れる姿勢。

そして思う。
弾き続けていく曲は
レッスンを超えて、
益々育まれていくのだな、と。

シューベルトの即興曲90の4は
彼女の一部になった。



昨日は早起きして、

ピアノ日課を半分をこなしてから
車で1時間半の母宅へ向かった。

父の13回目の命日を
共におぼえて 過ごそうね!
と、約束していたのだ。

玄関は
10月の刺繍にかえられていた。

マンション13階から見る風景。
田んぼは
刈り入れを待つばかりに 
色づいている。 

父に挨拶をして
手をあわせた。


母の味が丸いテーブルに並んだ。  
母と一緒に食べたくて、
母が好きなネタを中心に選んで
予約しておいたお土産の寿司を
母はメインに置いてくれた。


懐かしい食器。

母が父と富山時代に求めた
漆塗りの器や 皿に、
野菜の天ぷらやサラダ、
金平牛蒡や 
玉葱や舞茸がたっぷり入ったお味噌汁
などが並んだ。

母は帆立が大好き。

わたしも母も、
好きなものを最後にとっておく。

最後に顔を見合わせて
手を合わせて、
ご馳走さま!


しずかで
好きな物だけを選んで慈しみ過ごす
母の家は
癒しとなぐさめに満ちている。

ここに来るといつも思う。

「ひとりひとりの中にも 
   この空間があるのだ」
と。


そのことを
母の家の空間と
母の存在から知るのだ。

数日かけて焼き上げた焼き菓子を
ラッピングしたものも携えてきた。

「うれしい!
   少しずつがいいのよ」
といつも笑って言う母を描きながら
焼いた時間は、
しあわせだった。

とびきり美味しい秋の果実
「長野パープル」も行き道で選んだ。

ささやかな もてなしは
もてなすものも
もてなされるものも
ともに響きあい
よろこび満ちるひとときとなる。




ピアノも同じだと思う。

レッスンも同じだと思う。


生徒さんが
ありのままでいられるところ。

「音の世界」という
計り知れない美しい響きに
招かれ、
ふれられ、
そして自らに染み込ませて帰っていく。

ひとはみな美しい。

そして
ありのままでいられるときに
そのひとの美しさは
自然にあらわれてくる。


そのことを
母は語らず、
生きている日常で知らせてくれる。


父の写真には蝋燭が灯り、
父も
そうだよ!
と微笑んでいるようだった。



「やえこ、
    生徒さんに
    生徒さん自身の美しさを
    知らせてあげてな。」


父の願い。
母の願い。



そして
音楽の願い。



ティーマットに
花束が刺繍されていた。

父と母から流れてきた
やさしさの花束。


新しい朝がきた。

めぐみは日毎に新しい。


今日も深呼吸し
空っぽになって、

さあ!日課をはじめよう。

「継続ってすごいです!」
中2の生徒さんの眼差しに
あらためて
微笑みかえした。


「ほんとうね!ありがとう。
   素敵なあなた!
   今日もしあわせでいてね!」



まえだやえこ






お父さん、お母さん、ありがとう。