· 

こころの深みに響くとき

なんて爽やかな朝だろう。

スズメ達は語り合い
遠くでカラスが
空の広さを伝える。

どこまでも澄み渡る青に
ちいさな月があった。

静寂と透明な初秋の朝。

沈丁花の香りは
実りの季節へ
扉をひらいているように感じた。

見慣れた風景に
目の覚める鮮やかさを見出す時

呼吸する息もすべて
贈り物だと知る。


昨日もレッスンに
気づきはたくさんあった。


そのなかでひとつ
記しておきたいと思った
エピソードがある。


小学生の真ん中の年齢の
まだはじめて
半年にもならない生徒さんとのことを。


歌もわたしは大好き!と
2回目のレッスンのときに
歌ってくれた。

その歌は
わたしのこころに今も響く。

ラップのリズムを自分で刻み
ささやき語る声で
英語の歌詞を歌う。

眼差しは
彼女の内面の世界へと向けられていた。


既成のピアノメソッドに
彼女の魂はよろこびを感じるだろうか。

その時、瞬間、わたしは思ったのだった。

純粋で自分の世界を持ち
意志も感じる少女に、
それでも 
初歩の段階で読譜力とリズム
音の高低の楽しさを味わうのには
やはり適している、と
わたしは教材を与えた。

そつなくこなしていたかもしれない。

しかし
わたしには、
彼女の本質にふれるよろこびであるか、
が、気になってはいた。


そんな中、
前回
季節の先取りの曲、
クリスマスの曲をあたえた。


昨日のレッスンは
メソッドの数曲を弾いたのち、
彼女は答えた。

「あのクリスマス。
   見ないでメロディーを弾ける」

と。

 
聴かせてもらうと
身体のなかから
ささやくように
彼女自身の声のように
歌い紡ぐ音色が
キイをとおして生み出された。


はっとした。


わたしは思わず彼女の指を持ち
艶のある響きと
息にのせて紡ぐフレーズを導いた。

何度も何度も。




キイからは
とろりとあたたかな音色がうまれた。

彼女からは
息の音も聞こえないほど
身体へ響くものを味わっている感覚が
伝わってきた。


ああ、
この子の触れるところは
ここだった!


わたしの補助なく
その響きを自分ひとりで再現続ける姿に
はっとした。



ちいさな可愛らしいメソッド曲を積み重ねることで、よろこび膨らみ
育まれていく子もいれば、


おとな性のある曲を
音色の質や
息遣いをパーツパーツで弾き深めながら
時間かけて一曲を仕上げることで
育まれていく子もいるのだ。

ひとりにあたえられている
固有の感性と美しさが表されていく
そのきっかけと
「とき」
は、思いがけず与えられる。


ほんとうに
素晴らしいことだと思う。


その「とき」がいつなのか、
何が機会となるのかは
わたしには計り知ることはできない。


ある詩が想いおこされた。

🌱
わが思いは
あなたがたの思いとは異なり、
わが道は
あなたがたの道と異なる。

天が地より高いように
わが道は
あなたがたの道より高く
わが思いは
あなたがたの思いより高い。
🌱


音楽の願いにきき、
音楽の思いにわが想いを馳せていくとき

この
「とき」と
機会」を
受け取ったことに
気づけるのかもしれない。





今日もあたらしい朝がきた。

めぐみは日毎にあたらしい。

しずかなこころで
ゆっくりと音の扉をひらき
生徒さんをお迎えしたい。


きっと
今日も美しい1日になるだろう。


まえだやえこ